フィルムは記録する

明治天皇 御大葬餘影

1912年7月30日に崩御し9月13日夜に執り行われた明治天皇の大喪儀の「葬場殿の儀」のために青山練兵場に設けられた御大葬場を撮影したフィルムで、儀式の直接の記録ではないとはいえ、『嗚呼乃木將軍』(ST000234)とともに文字通り「明治」の終わりを記録した貴重な映像である。メインタイトル、二重橋前の広場に続いて御大葬場が映し出され、第一鳥居を望む総門の外から第二鳥居前へとカットが変わるごとに葬場殿に近づき、最後は葬場殿に向かって左斜めの位置から見学者の列を捉えていることが、参考文献(『明治天皇大喪儀写真集』)の各写真および解説中の図との比較で分かる。同書解説によれば、葬場殿は11月初めまで一般参拝が許可されたとあることから、本作もその期間に撮影されたと考えられる。青山練兵場での大喪儀の後、柩を載せた大喪列車は青山仮停車場を出発、14日夕方に京都の桃山仮停車場に到着し、墓所となる伏見桃山陵に埋葬された。また大葬場の跡地は明治神宮外苑となり聖徳記念絵画館が建設され、絵画館の裏手にあたる葬場殿の跡地には「葬場殿址」の石碑が建つ。フレーム中央上下に見られる半長円形は各フレーム間に穿孔されたパーフォレーションの跡である。

作品詳細

作品番号
ST000235
映画題名
明治天皇 御大葬餘影
映画題名ヨミ
メイジテンノウゴタイソウヨエイ
製作年月日
1912
時間(分)
2
サウンド
サイレント
カラーの種類
白黒
製作会社
家庭活動寫眞會
スタッフ
家庭活動寫眞會[謹寫]
フィルム映写速度
12
備考
元素材は、2017年度に一般社団法人京都映画芸術文化研究所所蔵の17.5㎜ポジフィルムより作製した35㎜インターネガフィルムを経て作製した35㎜上映用ポジフィルム。この35mmプリントは2018年度の上映企画「国立映画アーカイブ開館記念 映画にみる明治の日本」において上映されている。
参考文献(『大日本帝國商工信用錄』)には「春翠堂曾根眞文」と「家庭活動寫眞會」を併記した営業案内が確認できる。参考文献(佐藤洋)によれば、家庭活動写真会は東京神田で写真機材を扱う曾根春翠堂の曾根眞文が小型映画・アマチュア映画の普及を目指して設立。曾根は自社でも輸入販売していたドイツのエネルマン社の17.5mmフィルム規格の小型撮影機「キノ」をモデルに、「キネオカメラ」という名の小型撮影機を製作して1911年に発売し、同機の購入者が自動的に家庭活動写真会の会員になったという。また曾根は家庭用の映写機を製作し、自社製作を含む上映用フィルムとともに販売したとあることから、本作と『嗚呼乃木將軍』(ST000234)も販売用に製作された可能性が考えられる。
なお、製作年は撮影年とした。
参考文献
博信社編纂『大日本帝國商工信用錄 東京之部』(博信社、1912年)144頁(国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/945909/1/80
權田保之助『活動寫眞の原理及應用』(内田老鶴圃、1914年)352-355頁(国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/951523/1/190
橋爪紳也[監修・解説]『明治天皇大喪儀写真 縮刷複製版』(新潮社、2012年)
佐藤洋「おもいを尊重する工夫 最古の家庭用映画撮影機・キネオカメラについて」(『共立女子大学文芸学部紀要』第68集、2022年)共立女子大学文芸学部、109-141頁(共立女子大学リポジトリ)https://kyoritsu.repo.nii.ac.jp/records/3532