フィルムは記録する

小鷺の蕃殖 千葉縣新浜御獵場に於て 昭和六年五月撮影

山階宮菊麿王の第2子に生まれ陸軍将校から鳥類研究の道に進んだ山階芳麿は、研究対象である鳥の生態を収めたフィルムを手掛けており、本作では現在の宮内庁新浜鴨場(千葉県市川市)に生息するコサギの産卵から巣立ちまでの様子が記録されている。参考文献(「私の履歴書」)によれば、山階芳麿は1931年3月に東京帝国大学理学部動物学科専科を修了しており、本作の撮影はそれから間もない時期に行われたことになる。同年秋には現在の公益財団法人山階鳥類研究所の前身となる山科家鳥類標本館の建設が着工された。

作品詳細

作品番号
ST000232
映画題名
小鷺の蕃殖 千葉縣新浜御獵場に於て 昭和六年五月撮影
映画題名ヨミ
コサギノハンショクチバケンニイハマゴリョウバニオイテショウワロクネンゴガツサツエイ
製作年月日
1931-1935
時間(分)
9
サウンド
サイレント
カラーの種類
白黒
検閲番号等
元素材には検閲番号の穿孔跡があり、以下の検閲時報の記録と合致する。
1935年6月15日
J9030、日、實、敎、小鷺の蕃殖、1巻、63m、東京朝日新聞社(製作者、申請者とも)、一六ミリ、免
同日には本作と同じく製作者、申請者とも東京朝日新聞社で『小鳥の育雛』という作品の検閲記録がある。参考文献(東京朝日新聞)には、1935年6月15日に日本鳥学会と東京朝日新聞社の共催により東京科学博物館講堂で開催された「鳥類の講演と映畫」の告知があり、上映作品として「一、山階芳麿侯撮影 △鷺(十六ミリ)△富士山麓の小鳥の蕃殖(同)」の記載がある。『小鷺の蕃殖』と『鷺』、『小鳥の育雛』と『富士山麓の小鳥の蕃殖』がそれぞれ同一の作品の可能性が考えられるが確定はできない。
フィルム映写速度
16
備考
元素材は、2009年度に財団法人(現在は公益財団法人)山階鳥類研究所より受贈した16mm反転プリントより作製した35mmインターネガフィルムを経て作製した35mm上映用ポジフィルム。
検閲時報の記載と比べると、受贈した16mmフィルムの尺長は62.493であることから、完全版であると考えられる。
山階鳥類研究所からの受贈フィルムには本作とは別に、『小鷺の蕃殖 新浜鴨場に於いて 昭和六年五月』という題名の似た「YAMASHINA PRODUCTION」製作の16mm反転プリント作品がある。本作とは撮影場所と時期が同じであるものの使用テイクが異なっており、1931年5月に撮影されたフィルムから2つの作品がまとめられたと考えられる。また、本作の成立には検閲時報に製作者として記載された東京朝日新聞社の関りが考えられるため、製作年は1931年から検閲記録の残る1935年までと幅を持たせた。
参考文献(『写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代―』)によれば、山階宮家では気象観測に強い関心を持っていた二代菊麿王を端緒とした、王子たちの写真趣味が宮廷内全体に広がっており、1923年から1928年までは「ヤマシナ映画部」も活動し、「空の宮様」として知られた三代武彦王が飛行機操縦の様子を16mmで撮影するなど映画の製作・上映を定期的に行い、「撮影・購入した映画の巻数は150巻に及」んだという。
参考文献
東京朝日新聞(1935年6月14日発行15日付夕刊)2面
山階芳麿「私の履歴書」(『私の履歴書 文化人20』日本経済新聞社、1984年)293-296頁
(「読み物コーナー/山階芳麿 私の履歴書 第10回 鳥類標本館」[山階鳥類研究所]https://www.yamashina.or.jp
学習院大学史料館[編]『写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代―』(吉川弘文館、2008年)xv頁、293頁