奈良縣田原村
朝鮮総統府の活動写真班が農村の教化指導のための映画を製作する目的で1932年に日本の農村を取材した作品。1889年の町村制実施に際して15か村が合併して成立した奈良県添上郡田原村(現・奈良市田原地区)は古くから茶の産地として知られ、大正から昭和初期にかけて「富村良俗」を村是とした挙村一致の活動で優良農村として発展を遂げ、文部大臣や県知事から何度も表彰されていた。参考文献(『朝鮮總督府キネマ』)によればオリジナルは2巻となっているが、参考文献(『田原のくらし ―語りつごう私たちの文化―』第3集)に翻刻された説明用と思われる台本(奈良市史編集室所蔵)との比較から、元素材は後半の1巻分がほぼ完全な形で残っていると考えられる。この2巻目には青年教育の場である公民学校、新聞配達により団体の維持費を賄う青年団、奉仕活動を行う女子青年団、小学校校庭での敬老会の様子、村の図書館ともいえる文庫の運営、入営者のいる農家の手伝い、主婦会による生活改善、つつましく執り行われる冠婚葬祭や夏の盆踊りなど、若者を中心とする村民たちの様々な活動が収められている。撮影は参考文献(「役場日誌大●」)の7月11日の項に「農村施設狀况活動寫眞撮影ノタメ朝鮮總督府ヨリ來村本日ヨリ三日間」、あるいは参考文献(津村勇「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕 …田原村…」)に「本府の活動寫眞班は七月十一日田原の里に到着し前後四日間」とあり、撮影フィルムの尺数は「三千尺(約909m)」に及んだという。
本作の製作を担当し、実質的に監督も務めたと考えられる朝鮮総督府総督官房文書課嘱託の津村勇は、撮影後に朝鮮社会事業協会発行の雑誌『朝鮮社會事業』に5回にわたって田原村についての詳細な報告を寄せた。津村は朝鮮憲兵隊の京城隊特務曹長を務めていたが1919年に依願して予備役に入り、朝鮮総督府に転じ(参考文献『軍事警察雜誌』『職員錄』『財界二千五百人集 滿蒙及朝鮮篇』)てから映画に関わり始め、1940年には朝鮮文化映画協会長になった(参考文献『日本映畫年鑑 昭和十六年度版』)
作品詳細
- 作品番号
- ST000310
- 映画題名
- 奈良縣田原村
- 映画題名ヨミ
- ナラケンタワラムラ
- 製作年月日
- 1932
- 時間(分)
- 14
- サウンド
- サイレント
- カラーの種類
- 白黒
- 製作会社
- 朝鮮総督府
- フィルム映写速度
- 18
- 備考
- 元素材は、2004年度にロシア・ゴスフィルモフォンドより入手した35㎜不燃性ポジフィルム。
参考文献(『朝鮮總督府キネマ 昭和十一年』)記載の尺長(600m)と比べると、元素材である上述のフィルムの尺長は288.956mで約311m短い。
収蔵時不明だった題名は浦川温亮氏からお寄せいただいた情報により判明した。 - 参考文献
- 「公報 叙任及辭令(准士官)」(『軍事警察雜誌』第十三卷第八號、1919年8月)63頁(国立国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/1527544/1/36
「朝鮮總督府 ◎總督官房 ○文書課 屬」(『職員錄』印刷局、1920年)602頁(国立国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/12306940/1/384
「津村勇」(『財界二千五百人集 滿蒙及朝鮮篇』財界二千五百人集編纂部、1934年)283頁(国立国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/1447419/1/155
『朝鮮總督府キネマ 昭和十一年』(朝鮮總督官房文書課、1936年)46頁(国立国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/3458277/1/28
「昭和十五年度映畫日誌 十月二十日」(『日本映畫年鑑 昭和十六年度版』大同社、1941年)(ホ)25頁(国立国会図書館デジタルコレクション)https://dl.ndl.go.jp/pid/1142257/1/217
「田原村年表」(田原村史編集委員会[編]『田原村史 外編』田原村史編集委員会、1959年)583-587頁(奈良市田原地区ホームページ)https://naratawara.jp/sonshi
【以下は浦川温亮氏よりご提供・ご教示いただきました】
一菓「邑説/映畫化される田原 ―撮影班一行を迎へて―」(『田原』第三十一號、1932年7月)
『田原』(第三十二號、1932年8月)
津村勇「映畫撮影に付いての朝鮮よりのおたより」1頁
「邑説/映畫「田原」撮影 我村の將來へ何を約束されたか!」2頁
「役塲日誌大●(一字不明)」2頁
「男青公報」6頁
「女青公報」(『田原』第三十三號、1932年9月)3頁
『朝鮮社會事業』(朝鮮社會事業協會、[復刻版]『戦前・戦中期アジア研究資料4 雑誌「朝鮮社会事業」』近現代資料刊行会、2006年)
津村勇「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕 …田原村…」(第十卷九月號、1932年9月)40-44頁
津村嘱託「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕 …田原村…(其二)」(第十卷十月號、1932年10月)51-54頁
津村嘱託「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕 …田原村…(其三)」(第十一卷新年號、1933年1月)88-97頁
津村嘱託「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕(田原村)…(四)」(第十一卷二月號、1933年2月)49-58頁
津村勇「生氣に躍動する奈良縣の理想鄕」(第十一卷五月號、1933年5月)116-132頁
「映画「奈良県田原村」 朝鮮総督府撮影 昭和7年7月中旬」(『田原のくらし ―語りつごう私たちの文化―』第3集、奈良市立田原公民館、1989年3月)76-81頁
「2023年10月15日 映像で見る戦前の奈良 於:奈良県立大学」(奈良フィルムアーカイブ)https://sites.google.com/view/narafilmarchive/%E4%B8%8A%E6%98%A0%E4%BC%9A/2023%E5%B9%B410%E6%9C%8815%E6%97%A5
浦川温亮「新なら民俗通信46 映画「奈良県田原村」―その]発見と上映の経緯(上)」(『なら新聞』2024年10月4日付)10面(奈良民俗文化研究所)https://drive.google.com/file/d/1jvCGZD3jBLkAmyPHhBMerDH9nysGPVXP/view
浦川温亮「新なら民俗通信47 映画「奈良県田原村」―その発見と上映の経緯(下)」(『なら新聞』2024年11月1日付)10面(奈良民俗文化研究所)https://drive.google.com/file/d/1kAIuSxK3KvrLyau7NuuvG6_nPp4CMQOZ/view